《あきひろくんの場合》@a_m52wxyz
浮気をした。これが初めてでは、ない。
《えんげる@天使くんの場合》@engel_8103
たぶんほんとはモテたいわけでも、セックスがしたいわけでもないんだと思う。
あまりにも早くお互いイってしまって、でもって二回出す気力もないから時間までごろごろすることにした。割り勘で二千円くらいかって思いながら、スマホをいじる。
脱いだTHE NORTH FACEのパーカーが床に落ちてるのを横目に、Twitterを開いて「このハンバーガーめっちゃ美味しかったわ笑」とつぶやいた。すぐに3つくらいいいねがきて、友達やフォロー外の人からリプライが飛んでくる。みんな日曜の五時なのに暇なんだな。サッと眺めて、画面を落とした。
「えんげるくん気持ちよかったよ」
会計を済ませエレベーターで降りる途中、相手に耳元で囁かれた。こんなとこでなんだよと引きながら、僕もですなんていってはにかむフリをする。正直そんなに気持ち良くなかった。顔はそこそこよかったけど、脱いだときの体のバランスがダメ。くわえるときも、大きすぎてえずいちゃったし。
「また遊んでね」相当暇だったらね。
「ぜひ! きょーじさんと遊ぶの楽しかったし」やべ、声高すぎて白々しかったかな。
「また連絡するよ、帰り気をつけて」
「はい! きょーじさんも気をつけてー!」
駅について見送ってくれるまで、きょーじさんが僕の白けた気持ちに気付いた様子はなかった。でも、言ってる本人だって、二回も出した「また」がないことは、分かってたような気もする。
こんなもの、歯みがきや朝礼と一緒で、ルーティンワークだから。こなす以外に目的なんか、ない。思ってても思ってなくても、言わなきゃみんな気がすまないだけ。
かといって、無いなら無いでめっちゃむかつくんだけどさ。
きょーじさんに笑って手を振る。新宿東口から振り返ると、たくさんの人や光で目も耳も塞がれた。うるさいな、って当然のことをいつも思う。
階段を降りたあたりで相手が見えなくなって、笑顔スイッチが切れる。全身が人感知センサーになった気分で、スイスイ魚みたいに人を避けながらホームに上がった。この帰るモードのときに友達と会うと最悪で、その日の疲れが2割増しになる。
慣れきってしまった総武線1号車乗り口。5分くらい待つこの時間は、何度目だろう。今日みたいな日も、何度目だろう。数えるのは、十代の頃にもうやめた。
先に陣取っていた金髪ブスカップルの後ろに並ぶ。無意識にTwitterを開いて、かっかっとTLをさかのぼった。返信もしなくちゃいけない。「美味しくて幸せでした〜o(`ω´ )o」「一緒に写ってるのただの友達😢」「こんどおごって←」キーボード移動が忙しい。
「今日ここ僕も行きましたよ!」
リプ消化中に、お、と思う。最近気になってる子だった。キリッとした顔と、ちょうどよく太った体がエロい若い子。その子のページに飛んで、見覚えのある店内が写った写真を見つける。
バーガーが二つ。と、右手も、二つ。
「ブランくんもいったんだーw ニアミス悲しい(−_−;)会いたかった!笑」
ニアミスは、二つの場所の意味をつけて言っておいた。ヤることなんて、みんな同じでしょ。右手じゃなくて、相手の顔が見たかったな。
僕のリプはすぐにいいねがついて、一方通行に終わる。
あとはLINEで今日のお礼言って、きょーじさんとは相互だしTwitterでもたのしかった的なことつぶやいとけば、とりあえず印象はマイナスにならないだろう。
これでもう、帰るだけ。
あっという間だった。
でも、それは楽しかったからじゃない。単に、時間が過ぎてることを体感できなかったから。振り返って、あ、今日って日曜だったんだ、みたいな。あ、今日人と遊んだんだ、みたいな。ブランくんもやることヤったんだ、みたいな。
いけないね、最近の若い子は。未成年で新宿なんか来ちゃいけないよ。こっから染まってくんだろうなぁ、好きだったんだけどなぁ。割とマジで。
ま、人のこと言えないけど。
目の前が遮られて、アナウンスが鳴り響く。
はい、これにておしまいおしまい。
空いてたから、疲れに任せてどかっと座る。この電車は座席が硬くて、千葉まで安心して身を預けてらんない。なんでも柔らかくないと、よく眠らせてくれないと。
でもなんでこんなにも硬くて、痛くて、ギザギザしてるんだろう。
電車が発車すると、ちょっとして新宿のとげとげした光が窓を貫通した。向こうでのろのろ去っていく夜景を見ながら、ふと思う。
ーー何度もきてるけど、新宿って好きじゃない。
って、まるで田舎もんみたいだって自嘲して、冷えたスマホを握りしめた。
※この物語は完全なるフィクションであり、想像です。僕の実体験ではありません!重ねていいます!実体験じゃありません!以上!